俺様専務に目をつけられました。
電話をすると準備をして来てくださいと言われた。
寝室に準備してあったトランクを玄関まで出し、享くんはコンシェルジュさんを呼んだ。

「すまないが俺は晴香を支えるから荷物を頼む。」

「承知しました。奥様歩けますか?」

「はい。大丈夫です。」

地下駐車場までコンシェルジュさんに付いてきてもらい享くんの車で病院に向かった。病院まではまだ朝が早い事もあって十分ほどで着いた。

「東郷さん!この車いすに乗って。」

正面玄関で車を降りると松下先生が待っていてくれた。

「今、何分間隔?」

「えっと、五分から八分くらい。」

「わかったわ。ご主人は車を置いたら3階の産科まで来てください。私と奥さんは先に行ってますので。」

「わかりました。晴香、圭吾に連絡を入れたら直ぐに行くからな。」

ちょうど痛みが来ていた私は頷くのが精一杯。



そしてそこからが陣痛との本当の闘いだった。
ふーっ、ふーっ、陣痛の痛みを逃しながらひたすら耐えた。途中、連絡を受けたお義母さんがやって来たらしいが病室の外で享くんが帰してくれたと言う。
正直、助かった。実母ならまだしも義母にいられても気を遣う。しかもあのテンションのお義母さん、むりー、今は相手出来ないって。何も言わなくても家へ帰してくれた享くんは本当に出来た旦那さんだ。



お昼も過ぎた二時、叫びたくなるような痛みが休む間もなくやって来るようになった。いや実際すこーしは間があったけど、ほぼ無いに等しい!よく経験者がスイカが出てくるのかと思ったとか色々と表現するが、どれも合っていると思う。

助産師さんや松下先生の『はい、いきんでー!』と言う声に合わせ三回いきんだところでフッと痛みが消えた。

「おめでとうございまーす!男の子ですよー。」

分娩室内にオギャーと赤ん坊独特の泣き声が響き渡った。
横でずっと手を握り声をかけていてくれた享くんの目にも涙が浮かぶ。

「晴香、おつかれさん。そして、ありがとう。」

スタッフの皆さんがいるのにおでこにチュッとキスを落とす享くん。先生たちも『あらあら、仲がいいわね』と笑っていた。
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