【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
「ハル…?」

 本当に誰なのだろうか。
 未だ消えないそんな疑問は、タップして本文が表示されることによって解消される。

『悪い、葵から貰ったわ。今日も世話になってたみたいだけど、まともに礼も言えてなかったからな。まぁいい話持ってきてやったから、それでチャラにしてくれや』

 との前置き。
 良い話という部分に若干の不安を覚えつつスクロール、続く内容を表示する。

『ここ数日、葵の調子がいいもんだから問いただしたんだ。つっても、すんなり教えてくれたんだが』

 それはもうただの仲良しでは。

『で、聞けば今度の日曜に、写真の所に行くって話じゃないか。そこで提案ってわけだ』

 提案、ときたか。
 僕に送らずとも、葵に直接確認なり了解なりを得ればいいものを。
 それが相互にメリットがある話なら、一番喜ぶのは葵のはずだ。
 返信がいつ来るか分からないと踏んでか、メッセージにはまだ続きがあった。

『その日、丁度天文部員で集まって、程良い暗さの観察場所探しと銘打ってキャンプをしようって話になってるんだ。勿論キャンプだからサークルで金は出さん、完全に個人たちでの集まりなわけだ――が、場所が決まってない』

 と、そこでメッセージは切れていたけれど、そこまで書かれれば流石に察しがつくというもの。
 なる程、確かに悪い話ではない。ウィンウィンもいいところだ。
 写真で見た限りだと、あそこは星を見るには程よい暗がりだ。場所も広くて丁度いい。

 決まっていない場所を葵が提供し、その移動に使う金は。

『出してくれるんですか?』

 今最も大事な要点をそのまま伝えると、ノータイムで返信が来た。

『俺がな。メンバー全員からって葵には伝えるが、それは先輩たちに悪い。実際の代金は全部俺がもつ。その為に、最近詰めてバイトしてたんだからよ』

『なるほど、男ですね』

『いいや漢だ。ともあれ、オーケーと受け取っていいんだな?』

『ええ』

『なら、葵にはお前から伝えてくれないか? 俺からだとちょっとわざとらしいから、何か日曜に遥さんのサークルで出かけることになってるらしいけど、ってさ』

『そっちの方がリスキーだ。まぁいいですけど。上手くやっておきます』

『恩に着る、この借りは必ず。なら、そうだな――明後日だ。あいつのナリなら私服でも大学生っぽいから大丈夫だろうし、放課後着替えさせて《第三多目的室》に来てくれ。遅くまで残るって申請は通ってるから、時間の指定はしない。多少更けても構わん』

『了解です。明後日、妹さんの学校が終わり次第ですね』

『おう。悪いな』

 と、そこまで一気にやり取りをして、遥さんとの会話は終了。
 次いでそのまま葵に、短く要点だけを押さえた文面を送った。
< 38 / 98 >

この作品をシェア

pagetop