【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 ちょっとした縁って、一体何があったのだろうか。
 岸家の所有するそれが七人乗りだと知っている、いや、把握できている関係性とは。
 子どもみたく穏やかに眠る葵に釣られて睡魔に負けてしまわぬ内にと、すぐに立ち上がってご両親のいるリビングへ。部屋を出る際、なるべく物音を立てぬように気を付けながら。
記憶堂店主、桐島藍子という人物が現地で合流する――と、言われた通り簡単な内容で説明をしたところ、名前を出した時点で二人が目を少し見開き、合流すると言ったら喜んだ。

 ごく限られた一部の人に有名だという話だったはずだけれど。
 何があったのか「随分頼もしい助っ人が入ってくれるんだな」と褒め讃えられている。

 果たして、現地では役に立ってくれるのか。信用は誰よりもあるのだが、自分で『これ以上は役に立ちそうにない』と言っていたからなあ。
 強力な助っ人であることに変わりはないのだけれど。

 それから、頼れる追加要素が増えるという話が纏まる頃、双子姉妹が目を覚ました。色味だけ違うお揃いの寝巻を着込んでの登場だった。
 葵ちゃんは? と聞かれたので正直に「緊張感に負けて僕の部屋で寝ている」と伝えるや、今日はそっとしておこうという結論に至り、ご両親はまだ少しやることがあるからと僕が先に風呂を頂くことに。

 着替えを持って脱衣所へ。

 丁寧にも備え付けてあった鍵を閉めて、浴室へと赴く。
 見た目には明らかな美人であるあの二人の後とあって、何となく湯船には浸からず、シャワーだけで済ませた。
 脱いだ諸々を纏めて部屋に戻ると、葵は体勢すら変えずまだそこで眠っていた。
 それ程までならそっとしておこうと、毛布だけ持ってリビングへ。二人に事情を説明し、ソファを借りてその日を終えた。
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