【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 日が経ったある日の小さな依頼を解決した後、僕は桐島さんに尋ねた。
 写真に写っていたものが何だったのか、本当は知っていたんじゃないですか、と。

 桐島さんは少し渋って「予想の範疇でしたけど」と言った。

 通潤橋を映したあのアングル、近かれ遠かれあのようなものが無いのは確実だった。であれば、それは自然に出来た物でない。
 加えて、普通は気付かないような事象だったが、あの写真の右端には切り取った跡、数字と思しき字の端が見えていたらしい。

 ハサミではなくカッターによる切り口らしく滑らかにも見えたが、ふと『熊本の隠れた名所』の本の端と合わさった時、僅かだがズレが生じていた。機械によって作られた本と、機械によって作られた写真の端と端が合わないのは可笑しいと。
 写真の上下に少しの余白があったのは、それが昔の縦長携帯電話による撮影を印刷したものであるから。数字のような文字が右端にあるということは、それを横向きにして撮ったから。

 起き抜けに撮ったということで、ならば誰かの何か――と、その時点で予想はついていたらしい。

 高校に入ってすぐくらいまでガラケーを使っていた僕には、デジカメと違って、携帯電話の写真には日付が映らないことを知っていたのだけれど、印刷時にパソコンなどでそういった処理を施していれば、日付を添付することも可能だったという話を受けて、それ以上反論の余地はなかった。

 もっとも、リモートではなくオートで日付設定だけした場合、それは元の縦画面処理になって、写真の右端は元の向きに印字されることになる。
 元々機械音痴ではあったから、僕が知らないことの方が多いのは言うまでもなかったのに。

 桐島藍子。
 記憶力だけではない。

 切れ者も切れ者だった。
< 97 / 98 >

この作品をシェア

pagetop