諦めて結婚いたしましょう~一途な御曹司の抑えられない独占欲~
プロローグ
 ――私が九歳の春だった。

 屋敷の玄関で迎えてくれた年配の男性に案内され、両親の後を追って長い廊下を進む。

 視界の隅で、今日のために用意された淡いブルーのワンピースの裾がひらひらと揺れているのがもどかしくて、私は小さくため息をついた。

 こういういかにもな恰好はあまり好きじゃないんだけれどな。

 しかし、しょうがない。父と母も今日は、可能な限り私を(しと)やかに見せたいはずだから。今の私は、丁寧に梱包されたびっくり箱のようなものなのだ。

 祖父が創業した、文房具やオフィス家具、事務機器を製造・販売する【コクリョウ株式会社】は、今や文房業界シェア二位を誇る国内の大手企業で、最近になって、社長を務めていた祖父から父に代替わりをしたばかりだ。

 新社長になった父。そんな古城(こじょう)家の、私はひとり娘。
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