今夜、夢の中で。
*1話* 再会①
【7月27日】みやびside.

プルルルル…プルルルル…

ガチャッ…

「お電話ありがとうございます、四宮株式会社………」

今日もいつも通り。

いつも通り、電話が鳴ったら3コール以内に取って対応して、

いつも通り任せられた仕事内容をこなす。

昨日と何も変わらない。

いつも通りの平凡な毎日。

他の社員から冷たい視線を送られるのも私の「いつも通り」の中にいつの間にか追加されていた。

私は入社2年目の四宮株式会社の社員。

入社当時は今みたいな「いつも通り」はなかった。

毎日覚えることが沢山あって、あらゆることから刺激を受けていた。

田舎から上京してきた私にとって「東京」という世界は、
私の今までの日常を良い意味で破壊した。

私の故郷は周りに海か山しかなくて、
駅に行くまで1時間もかかるし電車の本数もとても少ないド田舎だった。

それに比べて東京は駅が沢山あって、
電車に乗り損ねてもすぐに次の電車が来て何とも不自由のない世界だった。

これから沢山の人と出会い、
今までと違う人生が待っているのかと思うと胸が踊った。

……でもこれは一年前の話。

一年後の今、
私はこれまでに無い程のドン底の人生を送っている。

入社して半年ほどたった時、
当時の部長の不倫相手として私の名が挙がったのだ。

もちろん不倫なんてしていない。

部長が奥さんに「他に好きな人が出来た」と離婚を切り出すと、
その女は誰だと問い詰められ、
部下の私の名前を勝手に出していたのだ。

怒った奥さんが会社中に不倫の情報を流し、
歯止めが利かない状況になってしまった。

部長は会社を辞め、
私は辞めても他に行く宛てがなかったのでそのまま会社に残ることにした。

それからほかの社員の私を見る目が変わった。

仲の良かった同僚でさえも影で私の悪口を言うようになった。

そんな自分が情けなくて実家に顔を出すことも出来なくなっていた。

社員達から白い目を向けられるようになってから半年以上経った。

いつしかこの状況が私の「いつも通り」になりつつあったが、
この日常は私にとって息が詰まる程辛い日々になっていた。

今日の仕事が終わった。

今日も仕事のこと以外では誰でも言葉を交わすことなく一日が終わった。

これももちろん、いつも通りだ。

「部長と不倫」このレッテルが私に貼られているのだ。

今年の新入社員でさえもうこの噂を知っている。

きっと会社の仕事よりも先に、この噂を教えられたのだろう。

帰りの電車に揺られながら自分の愚かさに腹が立つ。

何もしてないのに悪者にされ、
それを否定する力もない自分に……
目頭が熱くなった。

これも…「いつも通り」…。


家につくと、真っ先にシャワーを浴びる。

今日あった嫌なことを全部洗い流すために。

一人の時間くらいは楽しく過ごしたい。

といっても、
お風呂から上がってご飯を食べたらすぐに寝てしまう。

今日の夜ご飯は白米にサラダ、卵スープに蒸しササミ。

7時からやっているバラエティ番組を流しながら夕食をとっていた。

するとニュース速報のアラームが鳴り、
テロップが表示された。

【速報】韓国アイドルグループ「LEG end」のメンバー、ミン・ソジンさんが今日の韓国でのLIVE中に倒れたことが判明した。原因は過労。

レッグ・エンド…?脚の終わり?
初めて聞いたグループ名。。。

人間関係がゴタゴタする前から芸能界などにほとんど興味のなかった私は、
異国のアイドルについては完全に無知だった。

その時、私も過労に気をつけないとなぁ。
とだけ思ってあまり気にとめなかった。

全てを済ませ、ようやく布団に入った。

寝る前に両親のことを思い出した。

両親とは2年間会えておらず、
たまにしか連絡を取り合うことができていない。

「実家に帰りたい…」

そう思いながら、私は深い眠りについた。

【7月27日 21時42分】
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