嘘恋のち真実愛
秘密の条件
「なにもない……」


一時間の残業をして、帰宅した私は空っぽ状態の冷蔵庫を見て、ガックリと首を落とした。

お腹空いた……。

今からスーパーで買い物して、帰ってから作る……空腹が満たされるようになるまでの時間を計算する。

スーパーまで往復20分。それから料理すると超簡単なものでも10分。つまり、30分は我慢しなければならない。惣菜か弁当を買ってくれば、もう少し早くに食べられるかな。

幸いまだ着替えていなかったから、すぐに出れる。財布とスマホだけを小さな布バッグに入れて、五年暮らしているマンションを出た。

そして、五分ほど歩いたところで足を止める。

ここにしよう。


「いらっしゃいませー。ゆりかちゃん、久しぶりだね」

「こんばんは。煮込みハンバーグセットをお願いします」

「了解。適当に座ってね」

「はーい」


より早く、より美味しく食べれる場所であるカフェ『Kenアイランド』に入った。マスターである寺島賢(てらしまけん)さんは、40代半ばの渋い感じのいい男だ。

店名はマスターの名前からもじったと分かりやすい。
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