嘘恋のち真実愛
私が未央子さんの立場だったら、やはり納得したくないだろう。

征巳さんも困り果てたのか、なにも言わなくなった。これ以上、なにかを言っても彼女をさらに傷付けてしまう。

嗚咽が止まらない未央子さんの背中を付き人らしい女性がさする。


「未央子さま……帰りましょうか?」

「いや、征巳さんから離れたくない」

「悲しい事実ですが、大江さまはこちらの方とご結婚されたのです。これ以上、ここにいては大江さまを困らせるだけですよ」

「私は……私は、ただ好きなだけなのに」


好きになることは、いけないことではない。でも、実らないこともある。


「未央子ちゃん……好きになってくれて、ありがとう」

「征巳さん……ごめんなさい。困らせたいんじゃないの、知ってほしいだけなの……」

「うん、わかってる」


まだ涙が止まらない未央子さんは、征巳さんを見つめた。彼も未央子さんをしっかり見て、彼女の気持ちを受け止めている。

たまに食事をするだけの後輩といっても、未央子さんからしたら長い間に恋していた相手だ。
< 176 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop