嘘恋のち真実愛
征巳さんは妖しげに笑った。なんだか、嫌な予感がする。


「もちろんふたりで寝るためにね」

「私は、ソファーで寝ると言いましたよね」

「それは認めない。俺たちの親密度、今日増えていると思う?」

「ご飯は全部一緒に食べたし、朝は一緒の車で出勤しましたから、昨日よりは増えているかと思います」


普段しないことをしたから、それで充分ではないかな……。征巳さんは小さなため息をついてから、私の頬に手を触れる。

な、なに?


「ご飯を食べるとか、一緒の車に乗るとかは恋人同士でなくてもやるよね? そうじゃなくて、こんなふうに触れるとかしてない。朝に手を繋いだだけだよ。触れあうことで親密になれると思わない?」

「触れあう? 普通ならそうかもしれないけど……でも、私たちは本当の恋人ではないから」

「本当の恋人のようにできないと一緒に暮らす意味がない。ゆりか、今夜は一緒に寝るよ。嫌がることはなにもしない」

「わかりました」


一緒に寝ることが嫌だと言ったら、やめてくれますか? と言いたかったけど、その問いかけは心の内にとどめた。
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