俺から逃げられると思うなよ
「茜ちゃん……」



千秋くんが私の顔を覗き込んでいる。

心配そうな顔で。

こんな表情をさせたいわけではなかったのにな。



「穂村」



涼が背中を撫でてくれる。

守ろうとしたのに、私が守られてどうするの。



「茜」



神崎くんが私の手を取る。

神崎くんの手から伝わる体温。

安心するぬくもり。


私は、彼らの優しさに顔を上げた。

自然とあふれた笑顔。

彼らの顔を見るだけで、こんなにも心が落ち着くんだな、って改めて実感した。



「茜ちゃんが笑った!」



千秋くんが嬉しそうにする。

私に抱きついてきたので、私は苦笑いをしながらその背中を撫でる。


……撫でていると。



「千秋。離れろ」



涼は言いながら、千秋くんを私から離す。



「痛いって!」



シャツの襟をつかまれた千秋くんは苦しそうにしている。



「茜に抱きついた千秋が悪い」



そう言いながら神崎くんは私に抱きつこうとするので、説得力がない。


仲間っていいな、と思う。

笑いが止まらない。



これから始まる悪夢の幕開けとなることを知らずに。
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