千景くんは魔法使い


あれが落ちてきていたら、たんこぶくらい余裕でできていたと思う。

さっき、本が空中で止まってなかった?

私の見間違いか。あるいは、おばけに怯えすぎて思考がおかしくなっていたのか。

なにがなんだかわからなくて目をぱちくりさせていると、千景くんは私の手の中にある日本地図を抜き取った。


「これ、上に置けばいいの?」 

「え、あ、う、うん……」

私があんなに背伸びをしても届かなかった棚の一番上に、千景くんはいとも簡単に地図を戻してくれた。


「……あの、なんで……」

なんでここにいるんですか、という問いまで、言葉が続くない。でも、千景くんは察したように答えてくれた。

「たまたま通りかかっただけ」

視線を、開けっ放しになっていた扉に向けている。

私のような友達もいない人にも、千景くんは普通に話してくれた。

偏見を持っていたわけじゃないけれど、千景くんとふたりきりで話すような場面が訪れるとは考えていなかったから、今になって緊張がどっと押し寄せている。


「なんで日直でもないのに、遠山さんがこんなことしてるの?」

千景くんの声は、近くで聞くと思っていた以上に低く感じた。それにやっぱり背も高い。私とどのくらい差があるかな。10センチ……いや、20センチはあると思う。


「遠山さん?」

返事をしない私を見て、千景くんが顔を覗き込んできた。

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