千景くんは魔法使い
ボールがバウンドしながら、床に落ちていく。
私をかばうようにして視界に映っている大きな背中。
「……いて」
「ち、千景くん……!?」
私の代わりにボールを顔面で受けてしまった千景くんは、鼻から血が出ていた。
「だ、大丈夫?」
私は泣きそうになりながら、ポケットからハンカチを取り出して千景くんの鼻に当てる。
ボールを投げてきた男子も駆け寄ってきて謝っていたけれど、千景くんの鼻血が止まらない。
「すぐに保健室に行こう。このクラスの保険委員は?」
体育の先生が冷静に呼び掛けている。
「わ、私が一緒に行きます……!」
千景くんが心配で、もう授業どころではない。
私たちは体育館を出て、保健室へと向かった。
すぐに先生が千景くんの鼻にティッシュを入れてくれて、じっと様子を見る。しばらくすると、千景くんの鼻血は止まった。
「ジャージに血が付いてるから脱いで。今、洗えばシミにならないと思うから」
先生はそう言って、千景くんのジャージを持って廊下に出ていった。
「私のせいで本当にごめんね」
「なんで花奈が謝るの?」
「私がぼーっとしてたから……」
申し訳なさで顔を上げられずにいると、なぜか千景くんは「ふっ」と笑い始めた。
私の顔が変なのか。それともなにか面白いことを思い出しているのかはわからないけれど、千景くんはずっとクスクスとしている。