一夜の過ちで授かったら、極上御曹司に娘ごとたっぷり溺愛されています
「どの資料ですか?」
「ああ、北京の土地買収の昨年のデータが欲しい」
静かに言った私に、専務の声もいつもの仕事のときと同じになった。
「ああ、それでしたら共有の……」
「ああ、あった。ありがとう」
ホッとしたような声に、私は安堵する。
「……まだかかるんですか?」
心配するつもりはないが、もう22時をとうに回っている時計を見てつい言葉が口をつく。
「もう少しかな。今日中にやってしまわないと」
スピード重視の中国市場は待ってはくれない。
早めに事業部への指示も出したいのだろう。
「許可を頂けるならば、データー送っていただけますか? 資料をつくるのは私の方が早いです」
「いや、でも」
少し迷うような声が聞こえて、私は畳みかけるように声を発した。
「会社のパソコン持って帰ってきています。テレビを見ていただけなので大丈夫です」
もう子供も寝ました。
そんなことは言えないは、私はカバンからノートパソコンを取り出す。
「ありがとう。じゃあ少しだけ頼むよ」
少しの沈黙のあと、無機質な通話音が聞こえて私はスマホを持ったまま、なぜかギュッと締め付けられような、胸の疼きがおさまるのを待った。
仕事以外であの人のことを考えたくない。
私はそう思いながらも、パソコンの画面を開くと仕事を始めた。