セレナーデ ~智之

「俺 これからは 麻有ちゃんと ずっと一緒にいたいと思っている。付き合ってほしい。」


食事が終わって デザートになった時 智之は言う。


智之を 真っ直ぐ見つめる 麻有子の瞳から

一筋の涙が スーッと流れる。
 


「すごくうれしい。でも 少し時間を下さい。ごめんなさい。私 今 付き合っている人がいるの。その人に ちゃんと話すから。きちんとしてから 智くんと付き合いたい。」


麻有子の返事に 智之は微笑む。

黙っていれば わからないのに。


麻有子らしい 誠実な言葉が 嬉しくて。


智之に知らせずに そっと別れて 

何もなかったように 智之と付き合うこともできるのに。
 

優しく頷く智之に 麻有子の目からは さらに涙が落ちる。
 

「大丈夫。今まで 16年も待っていたから。会える当てもないのに。今は 麻有ちゃんが近くにいるから。いくらでも待てるよ。」


智之が言うと 麻有子は 顔を覆ってしまう。


「大丈夫だから、泣かないで。」

と言って 智之は ハンカチを差し出す。


受け取る 麻有子の指に触れたとき 

智之の全身を 熱い思いが走る。



こんなに好きだったのに。



こんなに求めていたのに。




何故 自分から 麻有子を捜さなかったのだろう。


ごめんね、麻有ちゃん。

俺は弱虫だったね。



これからは もう悲しい思いを させないからね。
 
 

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