セレナーデ ~智之

今 麻有子が 仕事を辞めても 生活に困ることはない。

もし困るようなら 父は 喜んで援助を 増やしてくれるだろう。


でも麻有子は すぐに 仕事を辞めるとは言わない。
 

「私 一般職だから。ずっと座っているから 大丈夫だよ。今から家にいたら 退屈で 体に悪いわ。」

つわりが軽い麻有子は 妊娠前と同じように過ごして 智之をハラハラさせた。


帰りの駅 智之に 走り寄る麻有子に
 

「もう。麻有ちゃん 走っちゃ駄目だよ。」

と智之も 慌てて走り寄る。
 

「大丈夫だよ。このくらいは。」

照れた笑顔の麻有子。

智之は肩を抱いて 
 

「麻有ちゃん 俺が見ていないと 何するか わからないから。明日から 会社に連れて行くよ。」

と言う。
 

「それもいいね。智くんと一緒に 仕事するの。楽しそう。」

無邪気に笑う麻有子。
 

「駄目だ。俺 一日中 歩き回るから。」

ガッカリした顔の智之に 
 

「それなのに 家のこと 手伝ってくれて ありがとう。」

と麻有子は言った。
 


智之は 昼間 どんなに歩いても 疲れを感じない。


麻有子が 待っていると思うと 軽い足取りで 家に帰れる。



仕事も順調で 同期入社の中で 一番昇進していた。
 



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