大正ロマンス
時は大正時代。大衆に数多くの新しい文化が広がり、様々な社会運動が起こった短くも激動の時代。

白壁の美しい大きな屋敷の一室では、まだ十八歳になったばかりの女の子が可愛らしい花柄の袴を着て、鏡の前に座ってリボンを紙につけているところだった。

「鈴(りん)、おはよう」

支度をする鈴を背後からふわりと立派なスーツを着た男性が抱き締める。鈴は頰を赤くしながら「まだ支度の途中です……」と恥ずかしそうに言った。男性は首を傾げる。

「なぜ恥ずかしがる?僕らは夫婦だろう。抱き締めても問題はない」

君が同じベッドで寝てくれないのが悪いんだろ、と男性は言い鈴の細い首に顔を埋めた。その刹那、チクリと痛みが走る。印がつけられたのだろう。

鈴は二十歳の黒羽弥勒(くろばねみろく)と一ヶ月ほど前に結婚した。弥勒の家は貿易の会社を経営しているお金持ちだ。しかし、鈴の家は中流家庭で普通ならば弥勒との結婚などあり得ないものだ。
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