パンデミック.新形コロナウイルス
地下の手術室の前で、担当の医師である石川が重苦しい足取りで歩み寄り、私たちに静かに告げた。
「……最善を尽くしましたが、お母さんの方は助かりませんでした。本当に……残念です」
冷酷な現実が宣告された瞬間、その場にいた全員の息が詰まった。
だが、麻酔から覚めかけている遥をこのままストレッチャーに乗せて、亡くなった母親と一緒に通常の病室へ運ぶことなど絶対にできない。そんな過酷すぎる真実を、今の彼女にいきなり突きつけるのはあまりにも残酷すぎた。
「待って……。遥ちゃんには、まだお母さんのこと、絶対に気づかれないようにしなきゃいけない」
明りが震える声でそう絞り出すと、石川も苦渋の表情で頷いた。
私たちは遥の動揺を最小限に抑えるため、母親の眠るストレッチャーをそっと手術室の奥にある整理実験室の方へと静かに移動させた。
そして、目を覚ましかけている遥には、まだ現実の残酷さを隠したまま、
「まだ麻酔が完全に冷めてないから、もう少しゆっくり寝てていいからね」
と、震える声を必死に押し殺して、優しい嘘をつきながら病室へと迎え入れるのだった。
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