〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅

 ある日、パク・ユンホと昼食を共にする機会があった。
 代表とパク・ユンホのアシスタント達も同席し、皆が席に着く中、トラブルはドアの近くに立っていた。

 料理が運ばれて来ると、パク・ユンホはトラブルに合図を送った。

 トラブルは肩から黒いリュックを下ろし、パク・ユンホの元に片膝を付く。
 血圧計を取り出し、手早くパク・ユンホの腕に巻き付け測定を開始した。
 測定が終わるまで待つ間に小さなケースを取り出す。

 血圧計が測定を終わらせ、トラブルはパク・ユンホに測定値を見せた。パク・ユンホは(うなず)く。

 次に先ほどの小さなケースから、いくつかの機器を取り出し、パク・ユンホの指を消毒する。
 ペンの様な細い機器を指に押し当てボタンを押すとパチンッと乾いた音がして、指先から血が滲み出て来た。
 それを違う機器で吸い取ると、ピッと測定が始まった。

 再び、ピッと電子音がしてトラブルはその数値を確認する。
 パク・ユンホのシャツをまくり上げ、下腹にインスリンを注射した。

 メンバー達は、その流れる様な動きを、息を飲んで見守る。

 パク・ユンホがシャツをしまいながら、トラブルに尋ねた。
「酒を飲んでもいいかね?」

 トラブルは、指を1本立てる。

「一杯だけとは、飲まない方がマシだ!」
 パク・ユンホは大袈裟に両手を広げてみせる。

 トラブルは、両手を動かして形をいくつか作り、パク・ユンホに見せた。
 パク・ユンホは苦笑いをする。
「『では、飲むな』とは、ひどい言い草だな」

 パク・ユンホのメインアシスタントであるキム・ミンジュが「先生、トラブルの言う事は聞いておいた方が良いですよ」と笑う。

「うーむ……」
 パク・ユンホは不貞腐(ふてくさ)れた顔をして、手でトラブルを追い払う。
 トラブルは一礼して、パク・ユンホから離れ、部屋を出て行った。

 ドアが閉まった瞬間、メンバー達は矢継ぎ早に質問をする。

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