〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅

 ソン・シムは3日でトラブルを見直した。

 飲み込みが早い。
 1度言われた事は決して忘れない。
 人がやっているのを見ただけでコツまで掴(つか)む。
 どんどん知識と技術を吸収していく。

 工具や機材の使い方などは、1年前に入ったスタッフを1週間で追い抜いていった。

 相変わらず目は合わせないが、筆談でしてくる質問は専門的で的確。よく勉強している。

 カメラリハーサルの為のダンスも、トラブルは過去の曲からすべてを覚えなくてはならないが、他の4人から教えてもらい、1日でほぼマスターした。

 何より身軽で運動神経が抜群に良い。

 ゴンドラを釣るすワイヤーが絡んだ時も、本来ならゴンドラごと1回下ろして絡みを直して、また、ゴンドラを上げてと時間がかかる所だった。
 トラブルは近くの足場を猿のように登り、ゴンドラに飛び移り、絡んだワイヤーを直して、飛び降りた。

 そして、滑車とワイヤーのサイズが合っていないと指摘してきた。

 1年前に入った新人スタッフは「そんなはずはない!」と憤慨(ふんがい)したが、調べてみると、そいつの発注ミスだった。

 私は「これが本番でなくて良かった」と新人を慰め、トラブルに礼を言った。

 彼女は相変わらず目を合わせず、頭をペコッと下げただけだった。


 最初はトラブルを(うと)ましく思い「何であんなのを引き受けたんですか!」と、くってかかってきたスタッフも、トラブルの使い方を心得てきた。

 ファンの羽根が折れた時、変えの在庫がなかった。
これもまた、新人のミスなのだが、本来なら部品を発注し納品を待って交換する。

 しかし、時間がない。

 誰かの「トラブルどうにかしろよ〜」の一言で、彼女はファンの残りの羽根を折れた羽根と同じサイズにカットし、アクリル板を当て、瞬間接着剤と結束バンドで固定した。

 部品の納品まで充分に使えた。

 折れてない羽根の方をカットする発想に私は感嘆した。

 トラブルが起きた時はトラブルに「どうにかしろよー」が合言葉のようになってきた。

 
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