〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅

 約10時間前。

 トラブルはメンバー達より遅い便で台北入りし、ずっとコンサート会場で作業をしていた。

 限られた空間でセットを組むのは想像以上に大変だった。

 新人は、あの日以来出勤して来ないので人手不足でもある。

 1つ1つ正常に機能するかチェックし、照明さんとメンバー達の顔に影が出来ないか、音響さんと音のタイミングでセット交換の動きを確認していく。

 今回はDVD化されるので特に失敗は許されない。

 確認に確認を重ね、ホテルへ戻った時は午前1時だった。

 ブーツを脱ぎ、服を脱ぎ捨てベッドへ潜り込んだ。

 翌朝。

 いつも朝は6時には起きてランニングをするが、さすがに今朝目覚めたら7時を過ぎていた。

 始めての事ばかりで頭も疲れた。体力には自信があるが男社会の理由がよくわかった。

 んー?

 知らない派手なトランクが置いてある。

(うーむ。とにかくシャワーを浴びて頭を目覚めさせよう…… )




 わぁっ! と、バスルームへ逃げ込むトラブル。

 テオだ。テオがベッドにいる。
 いや、私が寝てたベッドじゃない。
 隣にいたのか? いや、昨夜はいなかった。
 トランクもなかったはずだ。
 いつ入ってきたんだ? シャワー中か?
 いや、シャワーの前にトランクはあった。

 バスルームのドアに背を当てて深呼吸をする。

 とにかく落ち着こう。
 まず、着るものを取らなくては。
 パンツ履いててよかったー。

 バスルームから首だけ出して手で、あっち向いてと、合図をする。

 ベッドの上でテオは素直に後ろを向いた。

 トラブルはバスタオルを巻き、そっと部屋へ。

 カバンから服を取り出し、椅子にかかっているズボンを取り、バスルームへ戻る直前にいいよと、指をパチンと鳴らす。

(これがジョンの言っていたトラブルの合図かぁ)

 テオは向き直る。

 トラブルは濡れた髪もそのままに『何かの手違いなので部屋を変えて貰います』と、筆談で言う。

「はい。トラブル、字が綺麗だねー」

 笑顔を向けるテオ。

 トラブルは無表情のまま、返事をせずにメモを書いた。

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