【完結】私に甘い眼鏡くん
その日の放課後から修学旅行係の活動が始まった。

活動内容は二日目、三日目の午前にあるクラス見学の場所決めと、修学旅行のしおり作り。

なっちゃんと太一は部活で準備に参加できない時間も多い。
だからしおりの文面の割り当てを多くする分、文章の打ち込みは私と夕くんが放課後パソコン室で行う流れになった。

取り急ぎクラス見学の場所は今日候補を出し、明日その中からクラスアンケートを実施、明日の放課後に決める。

私たちは担任が持ってきた数々の旅行情報誌を吟味していた。

あくまで「平和学習」という名目なので、学習場所は先に決め、お待ちかねのレジャー場所決めタイムだ。


「まあ、水族館は外せないよね」
「海も見なきゃ損だよな。ここ海ないし」
「お前ら、意見が海に偏ってる。一日目の夕食も新鮮な寿司とか言い出すんじゃないか」
「は!? ここのステーキ屋に決まってんだろ! パフォーマンス付きだっつーの!」


そんな理由で大事な沖縄での夕食を決めていいのかと苦笑いする。
パフォーマンス付き焼き肉、興味あるけど。


「彩は? どこ行きたい?」
「うーん」


パラパラと雑誌をめくる。

私も第一希望は水族館だし、あとはそんなに行きたいところもない。
というか、沖縄に行けた時点で私はもう十分嬉しいのだ。


「タコライス食べられればいいかな」
「じゃあ自由行動のときに一緒に行こうね」


呆れ気味のなっちゃん。
ソーキそばも忘れるなよ、という担任の言葉に彼女はさらに肩を落とした。


「東雲は? なんかないわけ?」
「そうだな‥‥‥」


雑誌の紙がこすれる音が静かな教室に響く。
夕くんが提案したのはとても意外な場所だった。


「なんかこれ、東雲の提案だと思うとむかつく」
「わかる」
「なんでだよ」


いがみ合う人たちをいさめた。
でも、着眼点は悪くないと思う。高校生が好きそうな場所。


「じゃあ、海の候補はそこで。普通に景色もよさそうだしな。あと何個かだして、アンケート作ったら解散で」


太一、こういう時案外頼りになるな。
文化祭の時のなっちゃんもそうだったけど、私の周りにはリーダーシップがある人が多いみたい。


……まあ、夕くんは違うけど。


横に座る彼は、一度も視線を合わそうとしなかった。

私、なにかしちゃったのかな。でも、彼が提案した場所はあんなところだし。

もしかして、最悪の状況だけど、伊藤さんと良い感じに‥‥‥。


「彩! 聞いてる?」
「えっなに!?」
「ここの商店街で何食べたい?」
「絶対今決めなくていいやつだよねそれ」


ばれたか、と舌を出すなっちゃん。私の考えてたこと、顔に出てて気遣ってくれたのかな。

だめだめ、ちゃんとしなきゃ。
読み終わった雑誌を床に置き、別のものを手に取った。

秋風でページが勢いよくめくられていく。


見開き一ページの、青い海の中に白い橋が架かった写真で風が収まった。



“恋人の聖地”


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