痛み無しには息ていけない
「了解しました」


沙織が真面目に返事して、渡辺さんは去って行く。
自分は右手にティッシュを持って鼻先を押さえ、左手に保冷剤を持って眉間と鼻筋の間に当てる。
目の前に保冷剤があって、ピントが暈ける。
そんな暈けた視界の中でも、沙織が普段の1.5倍以上のスピードで段ボール箱を組み立てていってるのが分かった。


「…沙織、ごめん。ただでさえ今日は一人少ないのに…」

「マコは喋んないの!悪いと思ってるなら、さっさと鼻血止める!」

「…ふぁい」


沙織の言葉に圧倒されつつも、ちょっと心配してくれてるような気もして、感謝する。
10分くらいで何とか鼻血は止まってくれて、自分はノロノロと段ボール箱の組立を再開する。


「…ごめんよ、沙織」

「うん。…マコは無理しないでね」

「ありがとう」

「ただでさえ今の時季は花粉症の影響で、鼻の粘膜とか弱くなりがちなんだから……」


しかもワケ分かんない病気まで流行ってるし、という沙織の一人言が聞こえてくる。
…沙織、それは大丈夫。自分は絶対にアレに罹りはしない。不正出血が続いてるから。
話してる間も沙織の段ボール箱を組み立てるスピードは落ちる事は無く、それにつられて自分もちょっとだけペースを取り戻す事が出来た。

……しかし、試合延期になったか…。
めちゃくちゃ楽しみにしてたのに。
自分の出身中学の後輩二人がピッチに立って活躍していただろうし、横浜市と町田市の境らへんにあるサッカーの強豪高校出身の同級生対決もあったのに…。
そこまで考えると、悔しくて堪らない。


「はい、マコ。また鼻血出てるよ」

「うぇっ!?」


沙織から小さな保冷剤を投げ渡され、自分はまた鼻筋に当てる。
置きっ放しになってたティッシュボックスから適当にティッシュを取り出し、鼻先にあてがった。
今度は無事に、3分程度で止まった。
……てか沙織、何処から保冷剤出したんだ…?


「止まった?一度鼻血出ると、クシャミとかでまたすぐに血管開くんだから、注意しなきゃ駄目でしょ」

「…すんません」
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