痛み無しには息ていけない

~零~

繁華街を、自分と葉山花奏(はやま かなで)の二人で歩く。
今日は開校記念日で大学は休み。花奏と一緒に遊びに来た。


「次は本屋行ってー、TOEICの参考書買わなきゃ!」

「花奏は本当に頑張るな~」

「当たり前じゃん。今頑張って、将来は世界を股にかけて仕事してやるんだから!」

「さすが花奏!格好良い!」


花奏は大学に入学してから出来た友達で、同じ学部だし、実は同じ神奈川県出身って事もあり、かなり仲良くなれた。
そんな花奏はかなりの努力家で、今も“世界を股にかけて仕事する”という夢の為への努力を欠かせない。
努力や勉強が嫌いなのは勿論、究極の面倒くさがりである自分とは、まさに雲泥の差である。


駅の地下を通り抜け、信号を渡って右に曲がる。
この街には、某大手本屋チェーンの本店がある。
右側を歩いてた花奏は、必然的に車道側を歩く事になった。
――――何をどう考えても、それが全てを分けたと思う。全部が一瞬の出来事だった。

後方からクラクションと、誰かの悲鳴が聞こえた気がした。
後ろから車が突っ込んできて、ガードレールがぐにゃりと曲がり、歩道を歩いていたにも関わらず、花奏がモロに撥ねられた。
自分は全く事態を理解出来てないまま、撥ねられた花奏に弾かれ電柱に衝突。
電柱の金具に引っかかり、右腕に大きな裂傷が出来たが、その時の自分はそれに気付かなかった。痛みすら感じてなかった。


「花奏!花奏!?」


自分は撥ねられた花奏の元に駆け寄り、何度も声をかけるが、花奏は気付かない。
本来ならこういう時は警察と救急車を呼ぶべきなんだろうが、そんな事まで頭は回らなかった。

ぐにゃりと曲がった歪なガードレール。
自分の右腕から血が流れていた。そこでようやく、自分の右腕が痛み始めた。
けれど、横たわる花奏の下には、自分よりも凄い勢いで溜まっていく血溜まりがあった。

その後の事は、何も覚えていない。
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