痛み無しには息ていけない

~弐~

週明け。
今日は悪夢を見ずに済んだ。
傷も特に増えてないらしい。安心して一つ伸びをする。

出勤までにまだ時間があるので、ノンビリと朝食の準備をする。
昨日までにコンソメとご飯を炊き込む所まで済ませてあって、これからキムチリゾットもどきを作る。
ご飯の上にまんべんなくキムチを散らし、ハムとソーセージを一口大に切って適当に乗せながら、自分はこないだの沙織の言葉について考えていた。

沙織の言い分は痛いくらいに分かる。
ましてや、このGWは再会する約束までしていたのだ。
それを疫病の所為で中止に追い込まれたとか、どんだけやりきれないんだろう……。
沙織から正確な年数は聞いてないが、恐らく二人の付き合いは短くないだろうし。

しかし、裏では“こんな状況下でも会いたいとか、狂気だろ”という気がしなくもない。
頭の中に、沙織と自分は会った事も無い彼氏さんが、黒いドロッとした粘性のある何かに拘束されて、がんじがらめになっていくイメージが浮かぶ。
そこまで互いを拘束すんな。…気持ち悪い。
思わず吐き気がしそうになった。

塩コショウをしてマヨネーズとピザ用チーズをまんべんなくかけてから、電子レンジで加熱する。
…本当に電子レンジは万能である。
そんな事を呑気に考えていたら、無料通話アプリの通話の着信音が鳴った。……沙織である。


「もしもし?」

「もしもし、マコ?沙織だけど…」

「うん」


電話越しで沙織には見えないにも関わらず、思わず頷く。


「今日、体調崩して行けないから、渡辺さんに伝えておいてくれる?」

「えっ、伝えるのは良いけど…、沙織どうした?」

「……アレに罹った」

「はぁ!?」

「そもそも今、東京に居ないし。戻れない」

「東京に居ないって……、沙織あんた、今何処に居るの!?」

「熱海の病院」

「熱海って…静岡!?何でそんな……あ」


そうか、熱海。東京から名古屋に向かう途中の駅だ。
たぶんだけど、沙織は彼氏さんに逢いに行こうとして、途中で疫病に倒れてしまったのだ。
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