侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
「やあライル」
「今日はきみが婚約者を連れてくるって話を聞いたから、楽しみにしていたんだよ」
 親しい口調の青年たちの登場にコーディアは目を白黒させた。
「こんにちは可愛いお嬢さん。僕たちとライルは寄宿学校時代からの友人でね。昔からの悪友なんだ」
 金色の髪をした青年がコーディアに話しかけてきた。

「あ、あの。はじめまして。コーディア・マックギニスと申します」

 男性にはまだ不慣れなコーディアは突然現れた年上の男性たちにたじろぎながらもライルの恥にならないよう丁寧に挨拶をしたがすでに頭の中はパニック状態だ。

(あれ。婚約者って付け加えた方がよかったのかしら? で、でもなんだか図々しいような……)

 先ほどまでの強気な思いはどこへやら。自分からライルの婚約者だなんて名乗ってよいものか。コーディアの脳内は途端に弱気になる。

「よろしく。コーディア嬢。ずっとムナガルにいたって本当?」
「は、はい……」
 と、今度は黒髪の青年がたずねてきて、間を置かずにもう一人、薄茶の髪の青年も茶々を入れる。
「ライルは優しくしてくれている? 彼ってちょっと不愛想なところがあるだろう。僕たち心配なんだ」
「おまけに融通の利かない真面目さんだしね」
「女性をそつなくエスコートすることはできてもユーモアのある会話何て期待できそうもないし」

 男性ばかり三人に取り囲まれたコーディアはすでに酸欠気味である。ずっと女の子ばかりの環境で育ったコーディアはまだ男性に慣れていない。背の高い男性に次々に話しかけられてコーディアはライルの腕をぎゅっと握った。

「おまえたち、コーディアは男性に慣れていなんだ。よってたかって話しかけると彼女が怖がるだろう」
「僕は女性には好かれる顔立ちだってよく言われるんだけどなあ。ねえ、お嬢さん」
「へっ……」
 ずいっと顔を寄せられてコーディアは涙目になる。
「俺の婚約者に軽々しく近寄るな」

 ライルがコーディアのことを引き寄せる。ライルの胸にコーディアの顔が近づいて、心臓が騒ぎ出す。

「ほんの冗談だよ、ライル。僕たちも今日は一応パートナー連れだよ」
 金髪の青年があっさりと降参する。
「おまえたちの冗談は質が悪すぎるんだ」
 ライルは間髪を入れずに突っ込んだ。それに対して彼は「そこまで言い寄ってもいないけど」と苦笑いだ。

「まあ、おまえがコーディア嬢と仲良くやっているのは分かったよ。結婚式楽しみにしているよ。またクラブでじっくり話でも聞かせろよ」
「ああ、イーディス」
 黒髪の青年の言葉が合図になったのかライルの友人たちはそれぞれのパートナーの元へ戻っていった。

「すまなかった。彼らは古くからの友人で、それだけに俺の前だと態度が悪くなる」

 コーディアはライルを見上げた。
 学生時代の友人とはよい付き合いを続けているのだろう。ライル自身も砕けた言葉になっているのに、彼は気付いていない様子だ。

「いえ。仲がよろしいんですね」
「ただの腐れ縁だ。これまでも俺の婚約者を紹介しろとうるさかったんだ。……その、大丈夫だったか?」

 ライルの指先がコーディアの頬をかすめる。触れるかどうかの距離にコーディアの胸が締め付けられる。このまま彼が触れてくれればいいのに、と胸の奥底で渇望にも似た思いが淡く生まれる。

「わたしは大丈夫です」

 彼はコーディアが婚約者で物足りなくは無いだろうか。もっと気の利いた返しができたらよかったのに。
 コーディアはじっとライルを見つめた。ライルも同じようにコーディアだけを瞳に映していた。
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