侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
 大事なのはコーディアがどう振舞うかだ。逃げていたら令嬢たちに侮られっぱなしだし、租界育ちの女の子なんて所詮はその程度だと思われてしまう。コーディアは本国の子たちに負けないくらい勉強だって頑張ってきたのだ。
 その程度だなんて言われないためにも背筋を伸ばしたい。

 そんなコーディアの様子にライルは目を細めた。
「きみは、少し変わったな」
 面と向かって言われればコーディアは照れてしまい、膝の上で両指をくるくると回した。
「えっ……そうでしょうか。わたしインデルクで暮らしていくんです。もっと前を向かないとなって思ったんです」

「きみは……」

 ライルは何かを言いかけて、けれども途中で口を噤んでしまった。
 彼は何かを考えるように押し黙る。

「ええと……。何か変なこと言いましたか?」

 コーディアは不安になる。
 少し大きく出すぎただろうか。

「いや、何でもない。インデルクのこと少しは好きになってくれたか?」
「はい。アイスクリームが美味しいです。あとはチョコレートも。こればっかりはジュナーガルでは食べられませんから。こちらにきて初めてそのおいしさを知りました」

 コーディアは冷たくて口の中でふわりと溶ける甘いデザートを思い浮かべる。そこにとろりと溶けたチョコレートをかけると絶品なのだ。

「それは……なんていうか。別にインデルク限定ではないだろう。フラデニアでもロルテームでもカルーニャでも食べられる」

 ライルはくつくつと笑った。
 そんなに笑われることかしら、と思うがライルがこんな風に感情を表に出すことが珍しくて、何よりも寛いだ雰囲気がどこかあどけなくてコーディアは見入ってしまった。彼を笑わせたのが自分だというのがくすぐったい。コーディアもつられて笑ってしまう。

「わたしったら、アメリカのようになりたいのにまだまだのようです」
「きみはそのままでいいと思うが」
 コーディアの言葉にライルが笑うのを止める。
「でも、わたし彼女のこと尊敬しているんです。貴族の中の貴族って思います。あんな風に堂々としたいです」

「しかしコーディアがアメリカ嬢のようなってしまうのは……いやだ。私は今のままのきみのほうがいい」
 ライルの告白にコーディアの頬が真っ赤に染まった。
「えっと……それはそれでアメリカに失礼なような……」
 コーディアの指摘にライルは気まずそうに目を逸らせた。
「彼女は確かに素晴らしい淑女だと思う」
 ライルがアメリカを褒めるのを聞くと、コーディアの胸の奥がほんの少しだけちくんと痛んだ。

「けれど、私はきみの素朴さとか、すみれのような笑顔も好ましいと思う」
「あ、ありがとうございます」

 ライルの真摯な声音にコーディアは何を言っていいのか分からなくなってお礼の言葉だけ絞り出す。

 コーディアの言葉を最後に二人はしばらくの間沈黙した。それぞれチャータに口をつける。ここ最近ライルとの会話で困ることなんてなかったのに、コーディアはこの先何をどう話せばいいのか分からなくなってしまった。

 笑顔が好ましいって言われた。
 それってどういう意味だろう。深く聞いてみたいけれど恥ずかしく切り出せそうもない。
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