愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~
「ところで、春生はいつまで俺を名護さんと呼ぶ気だ?きみも、名護になったはずだが」
「え?」
言われてハッと気付く。
言われてみれば確かに。名護さんって呼び名に慣れてしまっていたけど……夫婦なのに苗字で呼ぶのもおかしいよね。
改めて名前で呼ぶのもちょっと恥ずかしい、けど……。
目の前の彼は、じっとこちらを見つめて待つ。
その眼差しに応えるように、私は小さく口を開いた。
「き……清貴、さん」
初めて声に出した名前が、甘く響く。
それを耳にして彼はまた嬉しそうに微笑んだ。その笑顔がかわいくて、この胸をくすぐる。
なにげないやりとりを気に留めてくれていたこと。
頭を撫でる手が優しいこと。
名前ひとつでそんなふうに笑ってくれること。
こうしてあなたのことを、ひとつひとつ、知っていくんだ。