愛艶婚~お見合い夫婦は営まない~



「そうやってひとりで、頑張っていたんですね」



今朝の清貴さんの意地っ張りの理由が、わかった気がする。



甘えることなく、ずっと平気なふりをしていたのだろう。

寂しさが身にしみないように、孤独に負けてしまわぬように。

いつも、ひとりで。



「でも大丈夫、今は私がそばにいます。だから強がらないで、無理をしないでいいんです」



なんの力にもなれないかもしれない。

だけど、寄り添うことはできるから。

あなたが寂しいと思うとき、弱くなりたいとき、隣にいる。



笑って言った私に、清貴さんは少し驚いた顔を見せてからつられたように微笑む。



「……嫌と言ってもか?」

「嫌と言ってもです!」



かわいくないことを言いながらも、その柔らかな表情からどこか嬉しそうな様子は伝わってくる。

すると清貴さんは、頭を撫でていた私の手を掴みおろさせる。

そして自然と自分の口もとまで運ぶと、そっと手のひらにキスをした。



まるで私の手を愛でるような口づけ。

しっかりと手のひらに触れる唇の感触を感じて、この胸はトクンと揺れた。



「……俺も食べてみたいな」



私の手を掴んだまま、清貴さんがぼそりと小声でつぶやく。



「え?」

「卵粥、絶品なんだろ?」



それは、冬子さんの卵粥のこと……。

自分の好きな味を知ろうとしてくれる、そんな彼の言葉に私は強く頷く。



「はいっ、すぐ作りますね!」



そして部屋をあとにしながらひとり廊下に出ると、先ほど彼が触れた手をぎゅっと握った。



……なんだか、熱い。

唇が離れたあとも、手のひらに触れた感触が消えない。



段々と熱を増して、刻まれていく。





  

< 51 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop