あの滑走路の向こう側へ✈︎✈︎✈︎

十五、新しい配属




冬の寒さも緩んできた3月の初め、
珍しく紘太が仕事帰りに唯の部屋に寄った。

「おつかれー、平日なのに珍しいね」
暖かいお茶を出しながら唯は言った。

「実は、来年度の配属が決まってさ」
「え、異動って事?」
「うん、まぁ」
「え、転居を伴う異動?」
唯は血の気が引いた。

「なんか、会社っぽいね、転居を伴う異動って」
と笑いながら、紘太は続けた。
「転居はしないんだけど、週に2日新幹線通勤と
 2日は市内の別の病院、残りは今まで通り」

唯は少し安堵したが、
時間が経つと、別の不安が湧いてきた。
唯はそっと紘太に抱きついた。

「どした?」
と尋ねる紘太に、
唯は言うべきか迷いながら言った。

「新しい病院でさ、方言で可愛く言い寄られたらさ、
 紘太もふらふら〜ってなるんじゃないかなって」

優しく笑うと紘太は言った。
「大丈夫だよ」

唯は、もっと強く抱きしめた。
「若くて可愛いナースが、手取り足取り、
 術衣着せたり汗拭いたりしてくれたら、
 ウッカリ、クラッとしたりしない?」

「ないない、しないから」
再び紘太は優しく言った。

「まだ心配?」

唯は、答えなかった。

「そんなに心配?」
紘太は抱きしめ返した。

しばらく時が流れた。

紘太が静かに言った。
「結婚しよう」

唯は驚いて、抱きついていた手を離した。

「式とかは、ちょっと当分忙しくて難しいけど、
 籍だけでも入れよう」

唯は嬉しさの余り、泣きながら頷いた。


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