神埼探偵事務所






────やっぱり今日も大河に丸め込まれた私は被害者資料を一緒に見てしまった。


何気に面白かったから良いんだけど。


タクシーの後部座席に二人、当たり前かの様に座っているけれど、内心は自分の家に帰りたくて仕方無い。


でも……大河にだって誰だって1人になりたくない時は有るよね。それは私もそうだし。


なーんていう、絶対にお門違いな見立てを立てて無言で窓の外を見つめる大河を余所目に、良い感じの男の子にLINEだけ送信しておく。

ただでさえ付き合っても無いのに、束縛や嫉妬心が強い子だから四時間も返事を返していなかったこの状況は彼にとっては耐え難いだろう。


面倒臭い事になるのも嫌だし、電源を切ったその時だった。まるで全てを見ていたかの様に、私をジッと見つめる大河。


「何、どうしたの?」


「いや。お前さ…」


「ん?」



「あの事件、どう思う?」


運転手さんはきっと彼が神埼大河だと云う事に気付いていると思う。でも、私の父も警察を辞めてからはタクシー運転手一本だからこそ分かるけど、彼達はお客さんの会話に首を挟まない。

大河も核心に触れない様に話しているからこそ、事件に対しての意見を話す位なら問題無いだろう。



「正直、全く分からない。女の子もいれば男の子も居た。そうでしょう?ただ年齢が皆、似てるって所位しか共通点が無い様に思える。」


「だなぁ…。」



「どんな気持ちだったのかな、って思うよ。被害者の子達は。」




「───ッ、お前その言葉…!」


「その言葉?」




「いやっ…まあ覚えてないかもしんないけど」

「俺とお前が四歳か五歳だったかな?そん位の時に、一緒にシャーロック・ホームズの本をお袋に読み聞かせてもらっててさ。」



「あー、あの頃はウチも母親がパートで家にあんまり居なかったし、お父さんも事件で出払ってる事多かったからいつも大河の家に居たもんね。」


「そう、そん時の話し。」

「そん時は、たまたま仕事が早く終わったオレの親父もリビングに居てさ。……でお前が言ったんだよ。」



『大河、悪い人を先に見つけようとしても何も見つからないんだよ。』


『可哀想な人達の気持ちをまず考えなきゃ』


『そうしたら、絶対に悪い人が何で悪い事をしたのか分かるんだよ。』




「──ッ、私…天下の神埼大河にそんな事言ったの?!」

ぽわっと顔が赤くなるのが自分でも分かった。私みたいなゴマメが大河の両親の前で…と考えるだけで、もう一段階顔の赤さレベルが上がりそうだ。


「お前がどう思うのか、覚えてんのか、そんなんは知らないけど。」



「でも、お前のあの言葉が有ったからこそ今のオレは居る。その事だけ、ちゃんと分かっとけ。」


ぶっきらぼうにそう言い放たれて、またも放心状態になる私。──何か、今日の大河可笑しいよね?


キラキラとイルミネーションされてる御堂筋の木々が見慣れたはずなのに何故か今だけは、ロマンティックな場所に私達二人を連れて行ってくれそうな気がした。


< 16 / 130 >

この作品をシェア

pagetop