神埼探偵事務所



やっぱりだ。


やっぱり昨日から大河は可笑しい。




アラームで私が起きたのは七時。目の前には何故か珈琲を淹れてくれている笑顔な神埼大河。

普段なら一緒に寝る事が有っても『お前はソファーで寝ろや』なんて言ってくるのに……。


寝た振りをしてたけど、私は知ってるんだ。

昨日は私が背中向けて寝たあとで、後ろからギュッと抱きしめてきた事も。その後、私が本当に眠ってしまうまで、抱きしめた手を緩めなかった事も。


「……。お、おはよう」


今まで彼を男として意識した事なんて無かったのに──、でも、昨日の今日で珈琲なんて淹れられちゃったら急に優しくなった悪魔の様な幼馴染をどう見たら良いのか分からなくて戸惑ってしまう。


「おん。おはよう。」



「──あ、あのさ。」

「おん?」



「何でそんなにニコニコしてんの?…もう事件、解決したわけ?」

「いや、全然。」



「?…じゃあ、何で?」



「お前の会社に俺の親父が連絡してくれたから、かな?」

「………はい?」




「だから、お前の会社に俺の親父が口裏合わせて連絡してくれたんだって。」

「……いや、それは聞こえたよ。何がどうなって?ん?話しが全然分かんない。」


ベッドサイドに有る煙草に火を付けて、まだ温かい甘いカフェラテを一口飲んだ。

サイコパス大河も寝室ではそんなに煙草を吸わないのか、灰皿には三本しか煙草が無かった。


1つには古い口紅が付いてるから…多分、ちょっと前に女でも入れたのかな?



「まあ簡単に言うなら、お前はロシアに狙われてるって体なんだよ。スパイ疑惑と云うよりかは、ロシア側が人違いでお前をストーカーしてる、みたいな」

「で、公安委員会を動かせて大阪府警公安の奴達に話し合わせて貰って会社に出向いて事情を説明したわけだ。要は身の危険も有るから、しばらくは公安の保護の元、青海サクラには過ごしてもらう、と」


「だから会社にしばらく行けない。でも青海サクラには何の容疑も無く、ただ単にロシア側の人違いだからある程度落ち着いたらまた普通に働かせてやってくれ、ってな。どう?最高だろ?」




子どもの様に無邪気な笑顔でそう言われて数秒後、とりあえず口に含んでいたカフェラテを思いきり大河の顔めがけた吐き出した私。


「はああ?!?「おめえ!汚ねえだろ!何すんだよ!!」


いやいや、頭が追いつかない。

寝起きでこんな事を言われて誰が「会社行かなくてラッキー♪」だなんて納得すると思う?



もう少しで灰が落ちそうなのにも気付かないフリをして、もう一度大きな声で聞き返した。


「ちょっと待って!!いやッ…はあ?!」

「何がどうなって、そうなったの?!」



「ああ?!朝からうるせえんだよ!」

「理由は後だ、後!!」


顔にカフェラテぶっかけられた事に相当腹が立ったのだろう。

前回酔っ払って泊めて貰った時に置いていった服の替えを思いきり投げつけられると決めゼリフかの様に『金と会社の心配はいらねえ!とりあえずこの事件解決するまでは俺と一緒に居ろって事だ!』と吐き捨てられた。



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