君との想い出が風に乗って消えても(長編・旧)



 美しい秘密の場所……。


 僕たち家族はその中に入った。


「こんにちは」


 僕が挨拶をすると、いつものように美しい草花たちが迎えてくれるようにやさしく揺れていた。


 そして……。


「今年もきれいに咲いてくれてありがとう」


 一輪の花も……。



「パパ、今年もきれいだね」


 娘も笑顔で一輪の花を見ていた。


 そんな娘の姿が微笑ましい。


「こんにちは」


 娘も一輪の花やたくさんの草花たちに挨拶をした。


 そんな娘の挨拶に答えるかのように、一輪の花やたくさんの草花たちがやさしく揺れていた。



 僕はこの場所がとても好き。


 この場所は僕にとって心の支え。


 そしてこの場所は僕にとって心の中の一部。


 僕は、この場所と共に生きている。


 僕は、これからもずっとこの場所で生き続ける。





 あのとき……。


 20年前の今頃……。


 一輪の花を見て辛くて苦しくて切なくて悲しくて涙が止まらなかったあの頃……。


 結局、あれから僕は一度も何も思い出せていない。


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