忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
バレンタイン ~高校時代~

# 未来side

# 未来side

昨日は夜遅くまでかかってラッピングをした。
今日バレンタインだから。
中身はガトーショコラだ。
唯と亜紀、達也くん…そして永井くんにも。

永井くんにあげると思うと少し緊張してしまい、私らしくないけど作るのを一回失敗してしまった。内緒だけどそれはお父さんと健用のバレンタインにした。

ラッピングにも中身にも違いは無いが、永井くんにあげる物は他のもの以上に丁寧に、心を込めてラッピングをした。

鏡をのぞき、櫛で髪を整えながらふぅ~と息をはいた。いつもはうつむくと髪で顔が隠れるようにおろしているボブヘアを今日はハーフアップにした。こんな髪型をするのは中学生以来だ。

「どう思うかなぁ…」

『バンダナしとったら髪の毛で邪魔されんで未来ちゃんの可愛い顔がよー見える』そう言ってくれた達也くんへの日頃の感謝の気持ちを込めて、今日はこの髪型にしようと決めていた。

きっとお世辞だろうけど、自信をもって といつも励ましてくれる達也くんに少し成長した自分を見せたいと思った。

「よし!」

気合いを入れて出かける用意を済ませた。



         ※



校門をくぐると学校の様子がいつもより華やいでいるように感じた。

「あぁ~緊張する」とか「もらってくれるかなぁ」とか…多分バレンタインの話題だろうなぁ…って思う会話があちこちで聞こえた。

かく言う私もいつ渡そうか…何て言って渡そうか…そう悩みながら歩いていた。

ふと時計を見てあわてた。

髪型を気にしてバスに乗り遅れ、いつもより一本遅いバスになってしまったからギリギリだ。

「大変!4階まであがらんといけんのに!!」

早足で下駄箱まで急ぐ。

ドンと誰かにぶつかってしまいよろける。

転びそうになったところを後ろから力強く支えられた。

「大丈夫?」

優しい声…

「なっ、永井くん。」
支えてくれたのが永井くんだとわかると少し緊張してガトーショコラが入っている袋をギュッと胸に抱き締めた。

「おはよう。後藤さん。」

支えてくれていた手を離しポケットにしまいながら永井くんが挨拶してくれた。

「おはよう、永井くん。あ、ありがとう。おかげで転ばんですんだ。」

「あれ?!未来ちゃん?!」

後ろから達也くんの驚いた声が聞こえた。

「髪型が違うけん一瞬誰かわからんかった~にあうで!やっぱ髪をあげとる方がええ!可愛い未来ちゃんの顔がよぉ見える!」

ちょっと顔をのぞきこんでほめちぎる達也くんがおかしくて、フフフと笑う。

「おっ!笑った顔も最高!!」

「もぉ!そんなに誉めて!わかっとるよ、達也くんが欲しいのはこれじゃろ。フフフ」

抱き締めていたトートバッグからラッピングしたガトーショコラを取り出し「はい、いつもありがとう!」と言い達也くんに渡す。

「えっ!俺に?!いやぁ~さいそくした訳じゃないんじゃけどな…ホンマに俺に?くれるん?やったぁー!!」

案の定跳びはねて喜んでくれた。

「お前、喜びすぎじゃろ!」

苦笑いしながら永井くんが突っ込みを入れる。

(今、渡さんと…)心臓がドキドキと音を立てている。達也くんにはさらっと渡せたけど、永井くんに渡そうかと思うと足が震えた。

「あっ、やばい、こんな時間!」

永井くんが腕時計を見て焦ったように言う。

あっ…と思った時にはもう思わずその手を握って引き留めてしまっていた。

「え?」

永井くんが私の方を振り向く。(もう迷っている時間はない)

「これ、昨日作ったガトーショコラ。いつもありがとう。」

昨夜練習したかいがあってどもらずに言えた。ちゃんと顔を見て。

一瞬戸惑ったような表情を見せた永井くんだったが、少し垂れ気味の目を細め笑顔で受け取ってくれた。

そればかりか私の頭に手をやり、そっと撫でながら「ホンマに、その髪型ええと思うで!チョコレートありがとう!」
そんな嬉しい言葉をくれた。

「…っけど、まじでヤバいけぇ、急げ~!!」

そう言って永井くんは私の鞄を持って走り出した。

「ホンマじゃ、急げ!未来ちゃんからのチョコレート効果で元気100倍!」

ふざけて言う達也くんが背中を押してくれた。


どうやって渡すか悩んでいたけど自然に渡せて良かった。髪型も誉めてもらえたし。

心がポカポカと暖かい朝になった。

永井くんが以前と同じように接してくれたような気がして嬉しかった。
< 33 / 108 >

この作品をシェア

pagetop