忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 光side

# 光side

男二人に囲まれ、腕を捕まれて怯えている後藤さんを見つけた時には心臓が止まるかと思った。

馴れ馴れしく触るな!怖い思いをさせるな!

怒りがふつふつと沸いて思わず怒鳴ってしまったけど、後藤さんから離れていた俺が一番悪かったと後悔した。

後藤さんは自分の可愛さにいまいち気づいていないところがあるから心配だ。

今更ながら唯や本岡が後藤さんのことを過保護にするのが良くわかった気がする。

そして、一番いらだつのは達也のようにスマートに後藤さんを守ってあげられないことだ。あいつと一緒ならさっきのようなことはおこらなかっただろう…。

気を取り直して飲み物を買いに行こうと誘う。
本当は手を繋ぎ傍から離れないようにしたいがそうもいかず、背中に手を回してそっと押すのが精一杯だ。

(俺、情けないなぁ…)

席に座り、距離の近さに戸惑う。

「うち、この映画ホンマに見たかったんよ。」
笑顔で大切そうに握るチケットを見ながら言う。その様子から本当にたのしみにしていたんだろうなとわかる。

「そぉだったんじゃなぁ。どんな映画?」

「うちの大好きな漫画が原作でな、出演しとる俳優さんも大好きなん。前にその話したの、多分達也くん覚えてくれとったんかなぁ…って、行き先を映画にしてくれた時ちょっと思った。それでなぁ…」

こっちを向いて笑顔で達也の事を話す後藤さんを見てズキッと胸が痛んだ。
(達也のやつ、ホンマよぉ見とる。大切にしとるんじゃなぁ、後藤さんの事を。)
そう思うと劣等感に似た感情が沸いてきた。それに比べて俺は本当に何も知らない。後藤さんを喜ばせることも、安心させることも出来てない。

「…永井くん?」

達也の名前が後藤さんの口から出たことに動揺して後藤さんの話が頭に入っていなかった。

「あぁ、ごめん、いつになく後藤さんがよぉしゃべるけぇ、そんなにこの映画が好きなんかなぁって思って」
我ながら苦しいごまかし方だ。

「え~そんなぁ。うち、喋りすぎ?ごめんなさい。」
後藤さんが顔を赤らめて言う。

「いや、全然そんなんじゃあ無い。喋ってくれて嬉しい。唯と一緒の時の後藤さんみたいじゃし…」
そう言った時、一瞬後藤さんの表情が曇ったように見えた。その瞬間パッと場内の明かりが落とされた。

「始まるなぁ~」小さい声で話しかけると
「うん」と小さい声で返ってきた。

映画は、恋愛映画だった。少し地味だけど愛くるしい感じの女の子が学校一のイケメンと言われる男の子と恋に落ちる話だった。
後藤さんは時々涙ぐみながら映画に集中していたけど、俺は後藤さんがいつもより近い距離に長い時間いることにドキドキして映画どころでは無かった。













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