忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~
再会に思う ~現在~

# 光side

# 光side

思わす唯の話題を出してしまった。
まただ…。またやってしまった。
高校時代から唯の話題を出すと、何故か後藤さんが困ったような表情を見せることに、俺は気付いていた。それなのに…また今日も…。


今日の事を思い出しながら高校まで一人引き返していた。


後藤さんはあの頃と変わらないままだった。思わず笑えるほど…何もかも。

うつ向いてそっと笑う姿も。遠慮がちに、でもまわりに気を使う姿も…。


今日も部屋に落ちていたゴミを拾っていた。
高校時代も、皆が散らかした教室を黙ってそっと片付けたり、落ちていたゴミを見つけると必ず拾ってゴミ箱に捨ててあげていたことを思い出す。

どんなに仲の良い友達にも、ただのクラスメイトにも、すれ違っただけの人にでも、分け隔てなく気を使う…そんな後藤さんは、いつも一緒に居る、学校でも目立つ方だった人気者、明るくて気さくな本岡亜紀や永瀬唯とはまた違って小さくて目立たないけど、その優しさは学校で一番だと俺は思っていた。


今日、唯が来てなくて良かったかも知れない。また後藤さんに気を使わせてしまうから…

後藤さんは本当にいい娘だと思う。今も昔も…
それなのに俺は、優しくしたいのに上手くいかない。今も昔も…。今日だって。別れ際に見せた辛そうな表情が俺の心にグサリと刺さった。

また困らせてしまった。多分…。


そう考えながら歩いているとあっという間に多目的ホールの前に着いてしまった。髪の毛をクシャッとかきあげ、ギュッとつかむ。ふぅ とため息をひとつついた。

髪の毛をつかんでいた手を離して広げ、じっと見つめる。
さっき思わず触れてしまった後藤さんの肩や背中の感触が、まだ残っているような気がして、ギュッときつく握りしめた。

後藤さんには他の女の子たちと同じように接する事が難しかった。それなのに何故か時々ふと触れてみたいと思ってしまう…。

「学校もいろんなところ変わっとった。掲示板も、自転車置き場も…体育教官室だって…」高校時代と変わってしまった事を寂しそうに話す後藤さんのか事がふと思い出された。

「でも、後藤さんはどっこも変わってなかったで。笑顔も優しさも気遣いも…」
独り言を言うと今日のモヤモヤがストンと消えた気がした。

少しスッキリした気分になった俺は、また多目的ホールの扉を開けて入り、会議の続きに向かった。

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