忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 未来side

# 未来side

永井くんが出ていったあともしばらく達也くんにしがみついていた。
達也くんは優しく黙って抱きしめてくれていた。

どのくらい時間がたっただろう。
達也くんの腕の中はやはり落ち着く。何も言わずただ私が落ち着くまで抱きしめてくれているその優しさに少しずつ落ち着きを取り戻していた。

「未来ちゃん?」
そっと体を離し顔を覗き込んで私の表情を読み取ろうとする達也くん。

「ごめんなさい。うち、ビックリして…。」
心配かけまいと精一杯笑顔を作る。

「まさかなぁ、見られるとは思わんけぇ。俺、嬉しゅうて気持ちが押さえれんかった。ごめんな。」
頭をかきながら照れた顔でそう言う達也くんを見ながら、しっかりしなきゃと思った。この優しい人を傷つけないように、永井くんへの思いは心にしまわなきゃ…。

「未来ちゃん。…好きじゃ。俺、ホンマに未来ちゃんの事が!」

「うん。ありがとう。」
あらためてそう言われ胸がポカポカとしてきた。
私はこの人と付き合って行くんだ。そう思った。

「一緒に帰ろぉや。送るけぇ。」
「うん。」

自転車置き場まで手を繋いで帰った。
達也くんの手は素振りでできた豆が沢山あって少しゴツゴツしている。
本当に野球をやめてしまうのかな…少し寂しく思った。辛い決断だったと思う。どれだけ真剣に野球に取り組んで来たかはよく知っているから。

そんなことを思い、少し沈みがちな気持ちを抱えながら帰ったが、達也くんが楽しい話を聞かせてくれ沢山笑った。いつのまにか自然に笑えている自分に気づく。
達也くんと一緒の帰り道は本当に楽しかった。
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