忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 光side

# 光side

練習が思うように行かないことに苛立っていた。あらためて達也の存在の大きさに気づかされ、ため息が出る。いままで達也の明るさと頑張りが俺のモチベーションをいつもあげてくれていたのだ。

「ふぅ…」

タメ息をつき、汗でベタベタする顔や腕を外水道の水でバシャバシャと洗った。
タオルで拭きながらふと調理室の方に目をやると窓から人影がのぞいているのが見えた。

(後藤さんかもしれん…)

そう思うと自然と体が調理室に向けて動いていた。

少しだけ…顔を見るだけ…ほんの少しだけ…

会いたい気持ちが押さえきれなかった。


調理室の外まで近づくと窓からのぞく後藤さんの横顔が少し見えた。
(やっぱり…!) 胸が高鳴った。

声をかけるより前に気づいてくれるかと少し期待したが、後藤さんは遠くを見つめながら何か考え事をしているようだった。その表情は元気がなく、落ち込んでいるようにも見える。

(どうしたんだろう?)

心配になり、つとめて明るく声をかけた。

最近はまた少しずつ打ち解けて話が出きるようになっていることにほっとしていたがやはり声をかける時には少し緊張してしまう。


思いがけずお菓子とお茶をご馳走になり、嬉しさでテンションが上がった。
そのせいでちょっとしたハプニングを利用して手を握ってしまった。

灼熱のグランドへ向かう途中、ふと立ち止まり手のひらに残る、小さく細いその手の感触を握りしめた。後藤さんの柔らかい笑顔を思い出し、胸がギュッとなった。



…あっ、タオル忘れた。

手に持っていたはずのタオルが無いことに気付き、急いで調理室の外まで向かった。

(もう一回後藤さんの顔を見れるかもしれん。)そんな淡い期待を抱いて。


調理室の窓の近くまで走って来た時、中から ガシャン!
と何かが落ちる音がした。

後藤さんの身に何かあったのかも知れない!

そう思うといてもたってもいられず、気がつくと空いていた窓から調理室の中に飛び込んでいた。
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