忘れるための時間     始めるための時間     ~すれ違う想い~

# 光side

# 光side

後藤さんが…泣いていた… エプロンの肩紐が破れて取れて…

心臓がドクンと音をたてギュッとつかまれたように痛んだ。まさか…

「…おい、達也…お前まさか…」
震える手を達也の方に伸ばす。

達也はそれをはたき落とし「お前こそ…」
絞り出すように低い声で呟く。

こらえきれず達也の胸ぐらをつかんだ。
近くに落ちていたステンレスのボールを蹴ってしまい大きな音をたてた。

「お前…後藤さんに何したんなら!」
怒りで声も震える。

うつむいていた達也が俺の言葉に弾かれたように怒りを露にして胸ぐらをつかんできた。

「それは俺のセリフじゃ!お前こそ嬉しそうに未来ちゃんの手を…俺の…俺の彼女じゃ!何してくれとんなら!!」
そうぶつけるように叫ぶと胸ぐらをつかんだまま突き放すように押してきた。
言われたことにギクッとしてしまった俺は尻餅をつき、倒れこんでしまった。

「お前、スパイク脱げや…キャプテンがこんなとこに土足で踏み込んで…問題おこしたら夏大は出場停止じゃで!」

達也は握りしめた手を震わせながらそう言うと後ろを向いてしまった。


ハッと我に返りあわててスパイクを脱ぐ。

それをつかんで立ち上がると後藤さんのことがあらためて心配になり、戸口に向けて駆け寄ろうとしたが、それを達也に手で遮られた。

「お前、ええかげんにせえっちゃ!未来ちゃんの事は俺が守るって決めたんじゃ。部外者がししゃりでんなや!」

いつも温和な表情の達也からは想像できないくらい鋭い視線で睨まれ、後退りをしてしまう。

「もう練習にもどれ。」
後藤さんを追いかけて戸口から出ようとした達也は一旦足を止め、振り返りもせず低い声で言った。

俺には…後藤さんを追いかける資格は無いのか?!…無いのか… 
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