病気の時は
1.



 マンションの一室。彼女の部屋の前。
 音を立てないように、カギを開ける。
 ゆっくりとドアを開けて、中に入る。
 そろそろと靴を脱いで、玄関の真正面にあるドアをそっと開けた。

 素早く部屋に入り、電気を点けずに目が慣れるのを待つ。
 カーテンの隙間から外灯の光が漏れている。おかげで、真っ暗ではない。

 奥のベッドには一つの大きな布団の山がある。
 その山が規則的に上下に動いているのが見える。
 彼女はぐっすり眠っているらしい。

 顔を覗くと起きてしまうかもしれないので、それは我慢しよう。

 暗い中、買ってきた物を、とにかく音を立てないようにエコバッグから出す。

 スポーツドリンク、ミネラルウォーター、果物のゼリー、ヨーグルト、プリン、アイスクリーム、レトルトのおかゆ、野菜ジュース、インスタントスープ、桃とみかんの缶詰、バナナ。

 おかゆとスープ以外の物は冷蔵庫に、アイスクリームは冷凍庫に入れる。
 冷蔵庫には、スポーツドリンクとお茶のペットボトルが1本ずつ。ヨーグルトは入っていたけど、他に物がない。

 やっぱりいろいろ買ってきて良かった。

 ふと考えて、スポーツドリンクとミネラルウォーターは2本ずつ買ってきたうちの1本をテーブルに戻す。冷たくない方がいい時もある、と以前彼女から聞いたからだ。

 元々テーブルに置いてあった薬局の袋を寄せて、まとめて置いておく。
 空いているミネラルウォーターのペットボトルは空寸前。それも一応寄せておいた。
 冷蔵庫と冷凍庫に入れた物をメモして、薬局の袋を重し代わりに上に置いた。

 本当は洗濯とかしてあげたいけど、それはさすがに起きてしまうのでやめておく。

 立ち上がって彼女を見る。布団に半分潜っている顔は、目を閉じている。
 苦しそうではない。ちょっとホッとした。
 頭をなでたいけど、我慢する。



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