冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


やがて涙が止まった頃。連れられるがまま森を進むと、二頭の馬を撫でるシルエットが見えた。

足音を聞きつけて茶髪の男性が振り返る。


「おー、お嬢さん!やっぱり帰ってきてくれると思ってたぞ!」


アスランは陛下とともに辺境の町へついてきてくれたようだ。陛下は、手綱を引いて慣れたように馬に乗った。こうして見上げると、とても絵になる。


「掴まって」


目の前に差し出された手を素直に取って身を任せると、抱きこまれるように前へ乗せられた。しっかりと体を支えられて、恐怖心と緊張感が消えていく。


「城に着いたら、今度はゆっくり東棟の浴場を使っていいよ」

「その言い方はちょっといじわるです」


つい眉を寄せると、彼はくすくすと肩を揺らした。その笑みがいつもより自然に見えたのは気のせいじゃないかもしれない。

一度別れを決めた城に再び迎え入れられるなんて思わなかった。愛のない関係だとしても、陛下の気が変わるまでは側にいられるんだ。

欲を言えば、もっと素顔を知りたい。たとえこの先、どんな未来が待ち受けていようとも。


こうして、延長された見定め期間が始まったのである。

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