想い出
 僕は彼女の頬を両手で触れた。

彼女の綺麗な瞳は僕だけを見ている。

その中でも僕は伝えなければいけないんだ。彼女に。

「僕は、幸せだった。他の誰かにも負けないくらい幸せだった。そして……」

「言わないで」

 彼女は首を振る。

自分勝手でもこれだけは言わなくてはならないんだ。

「愛してる。あの幼かった頃も、今も」

 彼女は次々に涙をこぼす。僕らは見つめった。

両手にある温かい彼女の温もり。それはあと数分で消えてしまう。

きっと僕らの想いが通じ、使命を成し遂げたなら僕は消える。

その使命は僕らが結ばれることじゃない。それを彼女はわかっている。

だから、彼女から出る雫は止まらないんだ。

「結衣、次に進もう。きっと僕らが前に進めるようになったら僕は消える。でも、最後は結衣。ちゃんとお別れしたいんだ。あの時できなかった分まで」

 彼女は目を閉じる。冷たい風が僕らを包む。

その風が過ぎ去った頃に彼女は目を開いた。

「私も、あなたを愛してる。今までずっと。」

 彼女が僕の頬に手を当てる。

「あなたと生きることができて幸せだった」

 僕らは最後に笑った。涙を互いの手に落としながら。そして、最後の口付けを交わした……
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