想い出
 大きな一つの木。

そこには小さな花々が包むように咲いている。

彼を守るかのように。

十年前。私は結月と最後の別れをした。

あの日から私は愛する人と今日を生きることを心に決めた。

そっと座り込む私に木々が優しい音を鳴らす。

「結月。久しぶりだね。私、成長したよ。見てた?」

 私は大きな木に手を置いてゆっくりと言葉を木にかける。

「あの日から十年。いろんなことがあったよ。愛する人が二人もできたの。かけがえのない存在だよ。でもね、思うの。どんなにかけがえのない存在がいても、あなたはあなた。あなたとの時間は何にも代えられない。ずっと輝いていた日々だったよ。もちろん、今の愛する人との日々も輝いてる。でも、あなたはもう一人の愛する、かけがえのない存在。ずっと私の中で生きてる。想い出という名の中で。だから……」

 頬をそっと一粒の涙が流れる。

それを拭った私は前をしっかり見つめた。

「私を。私たちを見守って。この今一瞬を大事に過ごしていく。私は、私の愛する人を大切にしていく。たくさんの想い出を作りながら、今日を生きていくね。」

 私の最後の言葉を木に告げると、風がそっと頬を撫でた。

まるで彼が、そっと涙を拭うように……  
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