医者嫌いの彼女
「お電話変わりました、呼吸器内科の瀧です。」

本田[お世話になっております。
明誠会病院の本田と申します。あの、
先生が春川亜妃さんの主治医でしょうか?]

亜妃…?

突然出てきた亜妃の名前に、
一気に心拍数が上がるのがわかる。
動揺し、声が上ずりそうになるのを何とか抑え、
平常心を装いつつ会話する。

「…えぇ。春川さんは私が担当しておりますが…」

本田「実は昨日の夜中、うちの病院に
運ばれてきまして…現在意識がありません。
そちらの病院の診察券を持っていたので、
連絡させていただきました。
あと、あの…ご家族と連絡を取りたいのですが、
連絡先ご存知ですか?」

意識が…ない?

「家族は居ないようなんです。祖父と暮らして
いたらしいのですが、他界され、それからは
1人で暮らしてるようです。
…あの、意識がないというのは?」

本田[そうだったんですね…。大きな荷物を
持っておられたので、訳ありかとは思いましたが…。
運ばれて来た時にはすでに呼吸が浅い状態でした。
喘鳴があったので喘息発作と判断し処置を行い
呼吸自体は落ち着いたのですが、今のところ
意識が戻っていない状況でして。
所持品の中に薬がなく、その…近況と、既往歴などを
お聞きしたいと思ってお電話させて頂きました。]

「なるほど…わかりました。
では情報提供書をFAXさせていただきす。」

本田[お願いします。あと…意識が戻らない事には
何とも言えないと思うのですが、治療は先生の
病院でして頂いた方がいいかと思うのですが…
可能でしょうか?]

「もちろんです、大丈夫です。
ただ、転院のタイミングとしては
意識が戻り、状態が安定してることが
条件となりますので、意識が戻った段階で
ご連絡いただけますでしょうか?」

本田[もちろんです。
そのようにさせていただきます。]

「よろしくお願い致します。」


はぁー…
電話を切ると思わず溜息がでる。

居場所は分かったし、安否確認も取れた。
まずはそれだけで充分だ。

意識が戻らないというのが気になるが…
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