あおの幽霊
「ただいま」
相変わらず閉まっていない家のドアに、妙な安心感を覚えながら玄関へと入る。
「あ、奏!おかえりなさい」
パタパタと足音を鳴らしながら、母さん奥から出てきた。
「ちょっと焼けた?」
「夏だからね」
バリアフリーとは程遠い、高い玄関土間と廊下の敷居の部分を超える。
家の奥から、人工的に冷やされた風が火照った身体をかすめた。
「ご飯までまだ時間があるから、荷物を部屋に置いていらっしゃい」
「うん、分かった」
2階へ登ろうとする足を、ふと止めた。
あの事が引っかかったからだ。
「ねぇ、母さん。
水元さんて、見つかったの?」
「…いいえ、まだ見つからないそうよ。
いきなりどうしたの…?」
少し困惑した母さんの顔。
そりゃそうだ。
帰ってきていきなり、1年前に行方不明になった同級生の女の子について聞くんだから。
「いや、なんでもないよ。
ちょっと気になっただけ」
「そう。
あ、今日のご飯はね、奏の好きなハンバーグな のよ」
母さんは、ふふっと嬉しそうに笑って台所に戻って行った。
水元さんは、『水元 葵』は見つかっていない。
なら、僕が見たあれは、何だったのだろう。