ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
不意に、ジャケットの襟が思いっきり引っ張られたと思ったら、灯里の唇が俺の唇に重なった。
身長差があるから、俺が屈まない限り、
背伸びをしても届かない。
高校3年生頃から、身長差がグンと開いたから。
灯里が襟にしがみ付くように背伸びしてキスをしてきた。

驚いて、唇を離した俺は、灯里のウエストを持ち上げる形になっていた。

「な、なんで…」

「お礼だよ。送ってもらった…」

角度的にどうしても上目遣いになる灯里。
暗闇でもわかるくらい、頬を赤らめている。
か、可愛い‼︎
めちゃくちゃ可愛い‼︎
と思うのに…
その理由になぜかムッとしてしまった。

俺達の間には、いつまでも“お礼”や“口止め料”
なんて言い訳が必要なのか?

我ながら、勝手だと思う。
でもその時の俺は、突発的なことに、少し驚いて、嬉しかった反面、苛立ちが募った。

灯里の言葉通り、ギブアンドテイクの仲なら、
ガッツリいただくまでだ、と思ってしまった。

「足りない。
今のは健心の分だな。
灯里の分はこっちからいただく。」

そう言って、俺は灯里の唇を思う存分貪った。

「あ、あき……ん…」

灯里が離れようとして、俺の腕の中で身を捩っても、そんな仕草は俺を煽るだけ。

好きだ。
離れないでくれ。
ヘタレな俺だけど、受けとめてほしい。

思いを込めた口づけは、満足するまで、離れることはなかった。

俺、やっぱりもう限界だ……









< 87 / 158 >

この作品をシェア

pagetop