ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語
「おはよう。
いや、俺も楽しかった!
麗も思ったより食べれたし。また行こう!」

「ありがとうございます。
院長室にご用ですか?
今、いらっしゃいますよ。」

「ううん。
親父じゃなくて、灯里ちゃんに会いにきた。」

「え?私ですか?」

珍しい。昨日も会ったのに。

「あ、今どこか行くところだった?」

「郵便局へ行くところだったんです。
少しなら大丈夫ですよ。」

「じゃあ、ちょっとドリンクコーナーに行こう。」

まだ外来が始まったところだから、ドリンクコーナーには誰も居なかった。

「はい。どうぞ。」

「ありがとうございます!」

寝不足だったから、熱いコーヒーはありがたい。

「バイトの話、どうなった?」

「あ、はい。
早速、麗先生が連絡を取ってくださったみたいで、早朝に長谷川さんから連絡いただきました。」

「麗は仕事が早いからね。」

「フフフ…そうですね。
長谷川さんもレスポンスがかなり早くて。
顔合せもすぐ決まりました。」

「…へぇ、いつ?」

「明後日、日曜日の午前中です。」

「そっかー。……お互い、実りがあるといいね。」

「はい!頑張ってきます!
あ、ところで、お話って?」

「……あ、ああ。
昨日、麗が言ってたこと。
俺からも改めて灯里ちゃんに礼が言いたくて。」

「え?」
なんだっけ……⁇

「麗に声かけてくれたことだよ。
ここはさ、大学病院があったところと違って、田舎だろ?
麗は都会育ちだし、それに、元々は人と壁を作りがちなヤツで。
当たり障りなく人付き合い出来るくらいの社交性はあるんだけど。
それと、心を許せるかというのはまた別の話だから。
俺なりに、麗が孤独にならないようにプライベートではかなり気を遣っていたと思う。
でも、仕事中まではどうしようもない。」

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