生贄の花嫁      〜Lost girl〜
―悠夜side—

抵抗をしなくなった彼女を研究所へと運び暴れることの無いようベルトで固定する。腕には爪でかきむしったような生々しい傷痕。何度も壁に打ち付けたのだろうか……大きな痣ができていた。

「柚…大丈夫だからね。いま、泰揮が治療してくれるから……。」

「あ…泰揮…。治療法は見つかったか…?」

「……。」


泰揮が目を伏せた。どういうことですか…?



「泰揮どうしたの…?なんで何も言わないの…?」

「調べたんだ…この症状の処置の仕方。」


「では早く言ってください。時間が……。」

「ダメだ…俺にはできない。」



「なんでだよ!?このままじゃ柚が助からないだろ。」



泰揮が黙って首を横に振る。いつもとは違う雰囲気に冷や汗が流れる。



「どちらにせよ、柚は助からない。」

「は…?それどういうこと!?だって、治療の仕方見つかったんでしょ?」


「たしかに資料には処置の仕方が載っていた。でも……本人の治し方は一切載っていなかったんだ。それどころか周りへの被害を防ぐために本人を殺めろと……。」


「殺めるって…。」



ドゴッ



壁に打ち付けられた劉磨の拳。それは私たちの怒りを代弁しているようだった。



「ふざけんな……なんで…なんで柚がこんな目に…。」


「俺らの不注意だったんだ。彼女の血液を調べなかったから……。」


「ぐぁっ…放せ…放せぇ!」


「彼女はもうずっとこのままなのですか…?」


「ああ、おそらく…。このまま放っておけばますます彼女の体を蝕みやがて怪物になるだろう。」

「そんな…。」




目の前でもがき暴れる姿に嫌でも現実を突きつけられる。これが…私たちが招いた惨劇。


「もう…終わりにしましょう。」
「悠夜…?」


「彼女をもう楽にして差し上げましょう。貴方たちもそう思うでしょう…?」

「でも…。」



「彼女の幸せを願うなら…早く終わらせましょう。」





私は懐に隠しておいたナイフを出した。まさか…このような目的に使うことになるとは……。


「私がやります。貴方たちは下がっていなさい。」




あまりの絶望さに涙を流す者もいる。その思いを背負いながら彼女のところまで歩み寄る。




「柚…申し訳ない。私たちと出会ってしまったばかりに…。」




腕を大きく振り上げ力強く振り落とす。彼女が苦しまずに逝けるよう。



私たちはこの日から殺人者になった。
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