生贄の花嫁      〜Lost girl〜
「何とか無事につきましたね。」

「アナタたちがいてくれてよかったわ。前の時は落っこちたから。」



「あ…あれ…。」


「ここが黒鬼院の屋敷ですか…。」

「気を付けてください。屋敷の中にはたくさんの下層吸血鬼がいます。」



屋敷の入り口からまるでゾンビのような体をもつ下層吸血鬼たちが斧や鎌などを持ちながら出て
きた。



「行くぞ。」

「おう。」





それぞれが持ち前の技を使って下層吸血鬼たちをなぎ倒す。気のせいかいつもより数段力が上がっていて周りへの被害が後を絶たない。




「聖クン、炎出しすぎよ。」

「こいつらを一気にやるにはこのほうが早い。」


「ぐっ…おら!」




後ろから首を絞められる。元は人間とは思えないほどの力。油断すれば殺される。



「劉磨、大丈夫か?」
「なんとかな…聖、後ろ。」


「ぐ……。」


「挟み撃ちかよ……めんどくせえ。」



「ぐあ……死ね…死ねえっ!」



やつらが武器を振り上げ正面から向かってくる。



「伏せて。」




その声に従い頭を伏せると真上で水滴がはねた。



「僕たちの得意技、毒針だよ。」

「ぐわ……。」





「そっちはどう?」

「こちらも片付きましたよ。」



「なんか思ったより弱かったね。気味が悪い。」



「こんなやつら…ただの時間稼ぎだ。先に行こう……花月のもとに。」




どうにか屋敷の中に入ることはできたがなんとも長い廊下に少し飽きてくる。




「こんなに大きい屋敷が残っていたなんて…アタシたちの屋敷並みよね。」

「この異空間にしか存在できないけどな。」



「そういえば、まだ話の途中でしたね。黒鬼院が彼女を欲しがるのは分かりますが何故貴方たちや柚を下僕にしたのでしょう…?元人間の血であればあるほど支配力と服従力があがりますが力を求めるのであれば純血種に近い者を味方につけたほうが賢明のはずですが……。」



「黒鬼院様は…吸血鬼協会を裏切っています。ですから真面な吸血鬼を味方につけることは不可能かと……。」


「裏切った…?汚職が原因ではなかったのですか?」



「表向きは代表取締役会長が自殺をしたことになっていますが実際は黒鬼院様が代表を殺害し破門を受けたそうです。すべてを失い復讐心を胸に刻んだと聞いています。」


「なんで李仁くんがそんなこと……。」


「以前黒鬼院様のお酌をしたとき直接聞きました。自分はもうどこにもいることができない。だから自分の理想郷を創るのだと……。その話がどこまで真実かは分かりかねますが。」



「つまりすべては黒鬼院が1から作った出来事だと……。」

「まあこうなってしまってはそうとしか言えませんね。」


「キズがここに来た経緯ってわかるか?」
「俺らより先にいたみたいだから詳しく知らないけど、何かを憎んでいたようだ。それがあんたらだとは思わなかったけど。」


「そうか……。」



「キズさんは……私が見る限りでは黒鬼院様に常に洗脳されていました。」
「洗脳…?」

「黒鬼院様は闇を深く持っているものがいるとき……その心を利用しようとします。闇と快楽を与え忠実な下僕にする。復讐心を植え付けどんな悪事も命令する。黒鬼院様はそういうお方です。」




李仁の話を聞いていると俺の中でとんでもない考えが1つ浮かんだ。



「劉磨、どうしたの?」

「今…闇を深く持ってるものがいるとき心を利用するって言ったよな…?」

「ええ。」




「だとしたら……その逆もあるんじゃないか…?」

「逆ってどういうこと…?」


「優しさ……つまり光の心を持っている奴が出てきたときも、そいつの心を使用しようとするってことだ。」

「光ってまさか……。」




「ああ。きっと花月は俺らが危険にさらされると分かれば自分の身を簡単に差し出す。その心を黒鬼院は利用しようとするんじゃないかって……そんな気がするんだ。」

「もしそうだとしたら花月はどうなるの…?」


「わからねえ。でも柚の様子で考えれば相当のことをされるはずだ。」




「なら、直接聞いてみるしかないね。」
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