生贄の花嫁      〜Lost girl〜
―楓side—

今まで自分がやってきたことへの報いがやってくる。そんなこと分かっていた。でも……花月たちの温かさに触れていたからか……周りからの冷たさが…寂しさが…心に突き刺さる。結局私はただの”理事長の娘”で…何も変えられない。


「おい、待て!待てって言ってんだろ、楓。」
「離して…私もう帰るんだから。やっぱり無理だったんだよ。私なんか…来ない方が…。」


「楓、お前は本当にそれでいいのか…?」

「……何が…?」

「変わりたいから来たんだろ?」

「私はただ……約束したから来ただけ。変わるなんて簡単にはできないんだよ。どんなに皆が私の背中を押してくれても……どうにもできないんだよ。それだけのことを私はしてきたんだから。」


「でも本当は変わりたいんだろ……?」

「……。」

「楓……。」












「……りたい。今までの自分なんか全部消して……やり直したい……。でも…どうしたらいいか分からないの。どうしたって自分の力じゃ何もできないの。」

「そんなの当たり前だ。誰だって1人で生きてるわけじゃねえよ。どんなやつでも誰かの支えがなくちゃ生きていけねえ。もう強がるのはやめろよ。」
「……じゃあ甘えろって言うの…?誰に…?どうやって…?」


「そんなの誰でもいいんだよ。花月でも俺らでも、クラスのやつでも、水瀬たちでも誰でもいいんだ。お前が甘えてみたいと思ったときに甘えればいい。」

「……どうせ嫌がられるだけよ。」


「だったらそんな奴こっちから願い下げればいいだろ。好きだからつるむ、嫌いだから無視する。人付き合いなんてそんなもんだ。分かりやすいだろ?」




《ミスターコンテストに出場する方は、中庭特設ステージに集まってください。》



「げ……時間になっちまったか。」
「時間って…?」

「ミスターコンテストに出されるんだよ。しかも推薦枠だとよ。」



「ぷっ……あはははは!赤羽くんが?嘘でしょ?あははは。」


「お前、笑えんじゃねえか。そうやって自分の心に素直になればいいんだよ。」

「……だって赤羽くんがミスターコンテストなんておかしくて……。」




心の中にあった冷たい何かが…詰まっていた何かが溶けて落ちていく気がした。そんな難しく考える必要なんて最初から無かったんだ。ただ自分に嘘をつかず、言い訳なんかせずにいればよかったんだ。


「……ねえ、私も一緒に連れて行ってよ。文化祭、最後までいてみたいから。」
「ああ。」






赤羽……劉磨くん。ありがとう。貴方のその真っすぐな言葉が何よりも響いたよ。


ねえ、貴方を好きになってもいいですか……?
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