生贄の花嫁      〜Lost girl〜
―2年前―

「誰…?」

「おやおや、ここにいたのかい…隠さずに早く出していればこいつらも死ぬことはなかったのにねぇ。」

「パパ!ママ!お姉ちゃん!」

僕の目の前には体からたくさんの血がでているパパたちが倒れていた。必死に揺すって名前を呼んでも返事がない。


「パパ、ママ…目を覚ましてよ…。」

「次はお前の番だ……子供の血肉だなんて大層なご馳走じゃないか。」


少しずつ僕に近づいてくる狼たち。僕は怖くて後ずさりをする。このままじゃ僕もパパたちみたいに…


「ぼ、僕に近づくな!この獣!」

近くにあった木の棒を振り回す。早く逃げなきゃ殺される。

「ガルッ!」
「うわ!」

狼が僕の上に覆いかぶさり僕の服を引きちぎる。


「柔らかい子供の肉…じっくり味合わせてもらおう。」

鋭い痛みとともに体の力が抜けていく。徐々に痛みは強くなっていき抵抗する力もなくなった。


誰か…誰か助けて…





「なんだ!?こっちから大きな音が聞こえたぞ。」
「うわ…こりゃひでえ…家の中がぐちゃぐちゃだ。」


2人の男の人の声が聞こえる。これで助けてもらえる。


「たす…けて…。」

「なんか声がしねえか?」
「おい、怖いこと言うなよ。こんだけやられてて人なんて…。」
「いや、確かに聞こえた。どこにいるんだ!?」


「たす…けて…。」
「今助けてやるからな。」

彼らが僕に乗っている狼を追い払おうとしてくれていた。


「なんたって、こんなところに狼がいるんだ。くそ、放せよ。」
「グルルルッ。」
「ぎゃあ!」

狼が勢いよく男の人の腕に噛みつく。叫び声をあげながら狼を放り投げる男の人。


「怖かったな、坊や。大丈夫か…?」
「あり…がとう…。」

「くそ、あの犬っころ、思い切り噛みやがった。」
「大丈夫か?」
「軽く噛まれたくらいだからなんとかな。それより俺らの用だろ。なあ坊主、お前の親はどこだ?」


「パパとママは、さっきの狼に殺されちゃった…。」

「とにかく金だ。金を出せ。」
「僕の家は貧しくて…お金なんて…。」

「なんだよ、助け損じゃねえか。行こうぜ。」
「でもこのガキ、このままじゃ死んじまうぞ。」

「いいんだよ別に。助けたのだってそれを餌にゆするためだったんだからな。金がないなら用はねえ。そのまま野垂れ死にな。」

「おい、待てよ…。」

2人組はさっさと家から出て行ってしまった。僕はお金がないから助けてもらえなかった。貧しかったから……


お金さえあれば。そう思う間も体の痛みは強くなり呼吸をすることさえ困難になる。


「ヒック…誰か…助けてよ…。」


寂しさから…孤独さから涙が出てくる。

助けて。なんでもいい。誰でもいい。痛いよ…苦しいよ…。




「無様な姿だな…狼に喰われたか。お前…助かりたいか…?」

薄れゆく視界の中に黒い羽織をつけた人が見える。


「お前がわしと契約をするのならばお前を助けてやっても構わない。」
「契約…?」

「わしの望みを叶えるための駒となれ。永遠に。」
「駒…?そうすれば…助けてくれる…?」
「ああ…いいだろう。」

「僕…契約する…だから助けて。」
「ああ。」


その返事と共に僕の首に痛みが走る。首筋から何か熱いものが流れていく。


「わしの名前は黒鬼院霧想。今日からお前はわしの僕じゃ。一生仕えよ。」


黒鬼院さんの口から血が流れているのが見えた。

この人は、僕の血を吸っている…?


「僕の血…吸っているの?」
「ああ…これでお前の体は吸血鬼となった。決して死を迎えることのない永遠の命。せいぜい懸命に仕えよ。」

気が付くと身体じゅうの痛みは無くなっていて出血も止まっていた。

これが吸血鬼の力…?


「不思議そうな顔をしているな……まあそれもそうか。不死身の体になったんじゃから。」

「僕…本当に吸血鬼になっちゃったの…?」
「左様。まあ体の基本的な造りは人間と変わらんがな。さて、行くとするか。」

「行くってどこに?」

「わしの屋敷だ。もうお前はここに暮らすことはできないし、いる意味もないじゃろう。わしの屋敷で暮らせ。お前みたいな境遇のやつが他にもいる。」
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